iPad Pro 2020年モデルが突如発表されました。
2018年モデルから1年以上経過していました。既に2019年秋にはA13を搭載したiPhone11シリーズが登場していたために、多くの人は「新型iPad Proに搭載されるCPUはA13Xになるんじゃないかな」と予想していたはず。しかし、実際にはA12XのGPUコアを1つ足した「A12Z」が搭載されると発表があっただけでした。
きっと2018年モデルのiPad Proからの買い換えを考えていた多くの人達はこう思ったと思います。
「A13Xじゃないんかい」
実際、ベンチマークにそれほど差は無かったわけですし、特に理由がないなら2018年モデルを使い続ける方が経済的です。
という話はどこのブログにも書いてある話なので、ここでは視点を変えて「なぜA13Xを作らなかったのか」に焦点を当てて考えてみることにしました。
とは言っても、僕はただのiPad好きな高校教師に過ぎず取材もしていないので、ひたすらググっただけの情報だけで記事を書いていることを了承していただきたいと思います。
A12,A12X,A12Z,A13の性能比較
まず、A12が登場してからのCPUの性能比較をしてみます。
CPU名 | A12 | A12X | A12Z | A13 |
プロセスルール | 7nm | 7nm | 7nm | 7nm(N7P) |
コア数 | 6コア 2xVortex 2.5GHz 4xTempest 1.5GHz | 8コア 4×Vortex 2.5GHz 4×Tempest 1.5GHz | 8コア 4×Vortex 2.5GHz 4×Tempest 1.5GHz | 6コア 2xLightning 2.65GHz 4xThunder 1.8GHz |
L1キャシュ | 128KB Instruction 128KB Data | 128KB Instruction 128KB Data | 128KB Instruction 128KB Data | 48 KB Instruction 48 KB Data |
L2キャッシュ | 8MB | 8MB | 8MB | 4MB |
GPU | 1.1GHz x4 | ?GHz x7 | ?GHz x8 | ?GHz x4 |
ダイサイズ | 83.27mm² | 122mm² | ?mm² | 98.48 mm² |
総トランジスタ数 | 69億 | 100億 | ?億 | 85億 |
まずはWikipediaとWikiChipを元に、性能をまとめてみた。
まず言えるのは、A12以外のCPUに内蔵されたGPUのクロック周波数が不明だったということです。コア数は書いてあったのですが、クロック周波数について書かれたページが見当たりませんでした。
それと、iPad Pro 2020に搭載されるA12Zがまだ謎過ぎて、表中の記載がほぼ推測でしかありません。公式でもA12XにGPUコアを1つ余分に乗っけましたって言ってるんだから、恐らくこんな感じじゃないかな?と思って入れてみただけです。
Appleが発表した数字のカラクリ
Appleの発表で言っていた性能の数値は、以下の通りです。
- A12XはA10Xの2倍、初代iPadの1000倍の性能だ
- A13の2つの高性能コアはA12より20%高速化、消費電力が30%削減
- A13の4つの高効率コアはA12より20%高速化、消費電力が40%削減
- A13のNeural EngineはA12と比べて20%の速度が向上した
- A13はA12のグラフィック性能より20%速い
この高速化だの消費電力が低下しただのという言葉だけを見ると、A13って凄いやんっていう印象を持ちます。ただ、A13の一番の特徴は、CPU内での電力の使い方でした。
A13 Bionicでは、より細かな単位に分割して、電力消費をより効率化する。
詳しいことは上記リンクを参照してもらえたらと思いますが、要するに、CPUに流す電気を大まかなブロックじゃなくて、更に細かい部分に流すことで、消費電力を抑えることができた。ということです。
このことから言えるのは、Appleが発表したままのやれ20%高速化しただの、消費電力が30%削減できただのというのは、クロック周波数を2.5GHz&1.5GHzから2.65GHz&1.8GHzに上げて更に電気を流す仕組みを変えたから実現したということです。
恐らくこの20%高速化したというのは数字のカラクリです。クロック周波数が若干上がったことに加えて消費電力が下がったのだから、同じ電力を消費する条件で計算すれば、20%という数字が出てくるはず。消費電力の30%減も同じことで、同じ性能を引き出すために必要な電力という考え方で計算すれば30%減ったということ。つまり、A13はA12と比べて20%高速化した状態で消費電力を30%減らすことに成功したわけではないと推測できます。詳しくはこちらのページを参照してみてください。
A13はA12からあまり進化してない
以上の内容から、僕自身はA13はA12と比べて、そもそもあまり進化していないのではないかと考えます。クロック周波数が上昇し、電力の使い方が変わったことが無駄だったとは言えないが、注目すべき点はあと2つあります。
1つは、プロセスルールが7nmから変わってないこと。プロセスルールというのは、CPUの回路をどれだけ細かく設計できるかを表している数値です。詳しくはこちらのサイトを参照してください。
A12では7nmで製造され、10nmで製造されたA11よりも高性能を発揮しました。ところが、A13はN7Pという第2世代7nmで製造されたもの。プロセスルールが同じであるならば、改良されてあるとはいえ回路の細かさはほぼ同じだと考えて良いと思います。
ならどこで性能に差があるのかというと、ダイサイズです。ダイサイズはCPUの面積のこと。A12のダイサイズは83.27mm²で、A13は98.48 mm²。つまり、細かさは同じで、CPUの面積を増やしたわけです。液晶ディスプレイの解像度で例えると、1ピクセルの大きさが同じで、画面を大きくすることで高解像度を実現しましたって言っているようなもの。総トランジスタ数がA12で69億個だったことに対して、A13では85億個に増やしました!とか言われても、そりゃ土地が広いからでしょ?と言わざるを得ません。
そしてもう1つは、A13はA12と比べて、キャッシュメモリが半分以下になっているということ。L1キャッシュは128KBから48KBに減っているし、L2キャッシュは8MBから4MBまで減らされています。キャッシュメモリとはCPUとメモリの間に位置するCPU内のメモリのことで、容量が大きければ大きいほどメモリにアクセスする頻度が下がり、高速化が実現できるというもの。これが減らされているわけです。
A12とA12Xはキャッシュメモリの値が同じ。となれば、単純にA13の強化版として仮にA13Xを出すならば、キャッシュメモリの容量がA12よりもA13Xの方が低くなってしまうことが想像できます。
結論「5nmでA14X作るから待っとけよ」
もしA13Xを開発するとなると、A12と第2世代とはいえ同じプロセスルールで設計しなければならない上に、結局はダイサイズを大きくしなければ性能アップも図れません。
そこまでして開発するくらいなら、A12Xの性能アップを実現した方が・・・、よっしゃコア数1つ増えたで!
という現実的な選択としてA12Zが生まれたのなら、納得できます。逆に言うと、無理にA13Xにならなくて良かったとも言えます。
そして何より、世の中は既に7nmよりも細かい5nmでCPUを設計する時代へと突入しています。
TSMCは2019年の時点で6nmを発表していました。
6nmのプロセスルールで製造するCPUの世代が担うのは、5Gの時代です。ただ、2020年3月現在でググった範囲で、実際にこの6nmで製造されたCPUが使われているのは、中国のチップサプライヤー「Unisoc」が発表したTiger T7520くらいです。
2020年2月の発表で、ようやく6nmプロセスが出来上がったわけです。しかもアメリカより先に中国が。TSMCが2019年内に6nmの量産を開始するというスケジュールだったために、iPhone11に搭載するA13に6nmは間に合いませんでした。結果的にAppleは7nmで性能を強化したものを出すしかありませんでした。
となれば中国の6nmに対抗するためには、更に細かい5nmでA14を開発して5G時代に対応し、A14Xを使ってiPad Proを製造するしか道は無いわけです。
以上が、僕がAppleのCPU、Aシリーズを調べていて行き着いた、Appleが2020年3月に発売するiPad Proに搭載するCPUをA13Xにしなかった理由(想像)です。
あと一つ言い残すとしたら、iPad Pro 2020はDeepFusionが使えないことですね。ちょっと残念。必要なのか?と言われると微妙なところですが。
CPU事情を色々調べてみると、情報って結構ネットに出ているものですね。色々分かるとこれからの情勢を考えるのが楽しくなりますね。
それと、A14Xについては、GPUコアが12コアになるのではないか?という予想を立ててみました。
本記事をご覧になった方は、次にこちらを読んでいただけると、今回の話の続きから読むような感じになると思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。