ICTで授業の効率を上げただけで、決して満足してはいけない

コロナ禍でオンライン教育の環境整備に拍車がかかっているように見える日本の教育。連日連夜報道される感染者数で第2波が確実に来ていることを実感させらる中、多くの学校が8月に入り夏休みを迎えています。

きっと2020年度の夏休みは、授業の遅れを取り戻すための補習授業などでほとんど潰れます。

それもこれも、所謂知識を詰め込むための教育を、日本がずっとしてきたからに他なりません。

これはもう、教育システムそのものを根本から変える必要があるんじゃ・・・?

そんな時に出会った本を、今回は紹介します。

Appleのデジタル教育

またAppleか!どれだけApple好きなんだ!とか言われそうですが、この本、ただのApple系ビジネス本とは訳が違います。

一言で言うと、ICT教育の考え方が書いてある本です。僕があまり好んでいないTips系の本ではありません。オススメのアプリとかサービスなどの情報は時間と共に色あせていきますが、この本に書いてある「ICTを使った新しい時代の教育の考え方」は、デジタルネイティブ世代に必要な教育。つまり現在最も必要とされている考え方です。最先端のデジタルを使った教育というのはこういう考え方の教育ですよっていうお話と、そもそも教育の概念を変えませんかっていうお話がてんこ盛りでした。

ICT機器をただ使えば良いというわけじゃない

この本を読んでいて、後半に差し掛かったあたりで衝撃を受けました。

「従来の授業の効率を上げるための単なる「ツール」としてしか使わないのでは、宝の持ち腐れだ。」

と書かれているのです。

これはつまり、紙の教科書から電子教科書に変えたり、紙のプリントからパソコン上で問題を解かせたりということを実践したとしても。ただ効率が上がるだけで、本質は変わらないということです。

ICTの力は、そんなもんじゃない。もっと根本的な、学びに対する考え方の大変革が起こるべきなんですよ。

アメリカの公教育も遅れていると言われていた

さて、少し前に、「今の日本の教育はSociety3.0から進化していないんじゃないか」という内容の記事を書きました。

GIGAスクール構想を、Society5.0を考えた時、「あれ、今の学校って、明治時代から全然進化してないじゃん」と気づくものです。

でもね、アメリカは、この事について既に2016年に問題提起されていたんですよ。

教育の成り立ちを考えると、わからない話でもありません。Society3.0時代、産業革命が進んだ時代の教育では、工場の労働者を育成するための教育が行われていました。この時代から作業効率を上げる、つまり生産性を向上させるという考え方が生まれました。

教育も同じで、この時代の教育を効率よくやろうとした結果、同じ内容を数十人に対して一度に行ったり、同じ内容のテストをやらせる事で、教育の効率は上がりました。

生徒一人ひとりに個性があり、教師にもまた個性がある中で、全国で同じ内容の教育をし、同じ内容で評価する事で、労働者を増やしていったわけです。

つまりね、この時代の教育の効率化というのは、同じ事を出来るようにする子どもを大勢育成することを効率化したっていう意味だったんですよ。

教育のリワイヤリング

本書では、この問題に対して、「教育のリワイヤリングが必要だ」と説いています。

リワイヤリング、スペルはrewiringです。reは「再び」、wireはワイヤー、「接続」です。つまり、「配線のし直し」という意味です。継ぎ足し程度の改革ではなく、今あるものを繋ぎ直す必要があるという事です。

これまでの学校教育は、言わばテストのための勉強でした。テストで良い点を取るために勉強する。

この時の勉強というのは、覚える事という意味で使われます。テストでは「これは覚えているか?あれはなんだった?」という聞き方の問題が出題され、生徒はそれに答えます。答えるためには知識が必要で、知識の内容を解答してするためには、覚えておくことが必要です。

ということは、テストで良い点を取るためには、より多くのことを覚えておく必要があったわけです。

そこでこの本では、より良い教育の柱として、ざっくり言うと次の3つが重要だと提言しました。

  • モチベーション
  • 学習の定義の再確認
  • これからの教師の役割

モチベーション

耳が痛い話ですが、学校とは本来、楽しいところであって欲しいものです。家では知れないことを教えてもらえる。自分の人生にとって大事な経験ができる場所。それが学校です。

しかし今はどうでしょう。特に小中学校では「この単元なら、もう塾でやってるし」と言わんばかりに、学校の授業に面白みを感じていない生徒がそこそこいます。僕自身、過去に塾講師を経験してきたのでそういった空気感を肌で感じてきました。

そして、大前提として「学校の勉強はつまらない、面白くない」という感覚が、生徒からどことなく伝わってきます。

その原因として、モチベーションが高くないことが挙げられいます。好きな歌の歌詞は覚えても、興味のない人物名は覚えられないもの。となれば、モチベーションが上がるようなことは人は覚えてしまうわけです。

では、どうやったら子どもたちのモチベーションが上がるのか。この本では4つにまとめていました。

  • 生徒に選ばせる
  • 現実的になるべきか、ならざるべきか
  • 失敗して学ぶ
  • グリットという力

生徒が自分で選んだ学習方法であれば、没頭する姿勢が長続きするという考え方。人間は、やらされている状態よりも、自分の考えでそれを実行しているという感覚の方が、進んでやるものです。

そして、主に進路相談などで、「夢を追うのではなくて、現実を見なさい」という考え方の押し付け。これではモチベーションを奪います。夢を全力で応援することが大事。

その為に現実的なことばかりをやらせるのではなく、「失敗することは当然のこと」を大前提に、どんどんチャレンジさせること。失敗を悪いことと思わせず、トライ&エラーを繰り返すことが大切です。

これを維持する為には、「グリット」という力が必要だということ。グリットとは「目標を追い求め続ける粘り強さ」のこと。長期的な成功を予測する為に必要なのはIQや標準テストの結果ではなく、グリットだというお話でした。

読んでいて納得しかできませんでした。高いモチベーションを維持する為には、未来を自分で選択し、現実的な考え方に囚われず、失敗を恐れずチャレンジし、途中で諦めない。これができた人が、成功しているわけです。

それと、「これを教育で実現させる為には、今の教育方法のままでは実現は難しいな」とも同時に思いました。

学習の定義

「暗記と学習の違いはどこにあるのか。暗記は所定の情報を脳内に保存することだが、学習はその情報が何を意味し、その情報の状況に応じた最善の生かし方を理解することだ。暗記は学習ではない。どう見ても、学習という複雑なプロセスのごく一部を担うものでしかない。」

ハッとさせられました。知識をただ覚えるだけでは、コンピュータの方が大得意です。それよりも、知識を使って問題を解決する能力の方がよっぽど重要です。

極端なことを言えば、わからないことがあれば調べれば良くて、調べ方はその時の環境によるわけです。図書館にいるなら関連本を読んでもいいし、スマホがあればググればいい。方法論よりも、調べていくプロセスそのものが大事です。

手元にパソコンなりスマホなり、ネット端末があれば、調べようとすればいくらでも情報が手に入るので、重要なのは調べる方法と、得た情報の活かし方です。

そして、人間の脳はそれぞれ異なるので、学習のスピードや最適な学習方法は、個々によって違います。ということは、同じ内容を同じスピードで学習させるという今の授業携帯そのものが、教師から生徒に知識を伝達する事の効率化は実現できても、肝心な学習という側面から見ると非効率的だということになります。

これを解決するのが「学習のパーソナライズ化」です。一人ひとりの個人に対して学習指導を行うことで、学習効果が高まります。

ちなみに学びの個別最適化と言うと、「同じ教科、同じ単元をやらなくても良いと言うことは、みんながバラバラなことをやることになるのではないか」と思うかもしれませんが、そうではありません。本書によれば、同じ単元を全員でやったとしても、目標や方法をそれぞれ変えるだけで、パーソナライズ化は十分に可能です。

これからの教師の役割

なるほど。高いモチベーションを維持させて、本当に効率が良い、再定義された学習方法で学ばせると効果が高いのか。

となれば、我々教師の役割とは?となりますね。

この本では「勉強している内容を、生徒の身近なことに結びつけること」が教師の務めであるとしています。これは子ども達が日頃から我々教師に対してぶつけてくる疑問、「先生、勉強って何のためにあるんですか?」というやつに如何に対応するかということです。

昔とは違って、今の時代の子ども達は、先生の言うことは全て正しいから指示に従うことが大事だとは思わなくなりました。ネットから知りたい情報をどれだけでも閲覧できるようになった時代、子ども達は大人がいいように言いくるめようとしている感じというのを見破れるようになったとも言えます。

この問題に対して、テクノロジーの力を借りることができれば、生徒の生活に関連した学習がし易くなるということが、書かれていました。教える側である教師が、デジタルネイティブ世代の感覚に合わせた授業を展開すれば、生徒は自分に関係がある話だと感じやすいわけです。

教師はもう、ただ知識を子ども達に与えるだけの存在ではありません。また、40人に対して同じことを強制する存在でもありません。子ども達のモチベーションを如何に高い状態で維持させるのか。学習効果を上げるのか。テクノロジーを活用しながら、生徒の成長をマネジメントする能力が求められています。

感想

この本、元が洋書だったからか読みづらい部分が多かったものの、本当に読み応えがある良書でした。

「ICTを使って効率化しただけじゃ、全然テクノロジーを駆使できてねーよ」ということを思い知りましたよ。

これからGIGAスクール構想が進み、小中学校では1人1台タブレット端末の時代がやってきます。ただ端末を用意しただけじゃだめ、従来と同じ授業を効率良くやってもだめ。それ以上の効果がテクノロジーにある。

そう思い知らされただけで、お尻に火がついた気分になりますね。

それとホッとしたのは。僕が書いた『教師のiPad仕事術』と内容が全然重なっていないこと。こっちは教師向けの本であることに対して、今回紹介した本は子ども達がタブレット端末を使うことでの学習効果の話でした。上手く共存できそうです。

この記事を書いた人

魚住 惇

魚住 惇

高等学校教諭で『教師のiPad仕事術』の著者。 AppleTeacher、スクールプランニングノート公式手帳達人、相棒はHHKB HYBRID Type-S 白無刻印、HHKBケーキの人。コーヒーは生豆から焙煎。Podcast「さおとめおとらいふ」始めました。

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