HHKBエバンジェリストの魚住惇です。
この度、PFU社よりHappy Hacking Keyboard HGを購入させていただきました。PFUにて長期間デットストックされていたもので、Bランク品です。HHKBエバンジェリスト限定の特別提供枠に当選したので入手できました。
とはいえHHKB HGが発売された時代から、端子もキーボードに対する考え方も変化しました。普通に使うだけでも良さそうですが、それだけでは勿体無い。
今回は、HHKB HGを2025年にも喜んで使いたくなるようなキーボードに改造というかカスタマイズしてみました。魚住のこだわりに、どうかお付き合いください。
Happy Hacking Keyboard HG
Happy Hacking Keyboardの、このHGというモデルは2006年10月に発表されたモデルです。そう、最新モデルではなく、2025年から見ると19年前の出来事です。
ボディがアルミ削り出しでできている、かなり高価なHHKBです。
当時発表されたモデルは英語配列のみで、キートップが墨、墨無刻印、白、白無刻印、朱金(漆)となっていて、朱金(漆)のモデルは525000円しました。
それ以外のモデルでも、262500円でした。高い、高いよ。でも、今こうしてHHKB HGを使って入力していますが、これはかなりすごいものです。
現存するどのモデルよりも、ボディの剛性が高くて、打った際のあの反響音もなく、コトコトとした感触を楽しみながら入力できます。
これだ、これだよ。こうでなくちゃHHKBは。
いかんいかん。まだ記事の冒頭。まずは開封した様子から紹介しなければ。
開封の様子

う、わぁぁぁぁぁ・・・・・・、・・・、なんだろうこの。あぁぁぁぁ・・・。
これがキーボードのパッケージなのか。見ただけで、緊張する。
中身を横から引き出すと、よくあるHHKBが入っていそうな箱が上下で2段入っていました。
上の箱を開けてみると、

付属品類が出てきました。この刻印のある木の箱の中身はというと、

チルトのための足の交換部品が出てきました。後になってわかりますが、これは角度を高くするための部品。僕はHHKBの角度は一番高くする派なので、きっとこれに交換するんだろうなぁと思いながら眺めていました。この部品を眺めるのに5分かかりました。

そして、これが。本体が入っている箱。

わ、わぁぁぁぁ・・・。これ、何これ。キラキラしているの。

金箔・・・?いや、これが本物の金や銀なのか、ちょっと判別がつかない。今はっきりわかっているのは、この包んでいる薄い布は、絶対にぐしゃぐしゃにしちゃいけないっていうことだけ。

どどん。はぁぁぁあぁぁぁぁぁ。これがアルミ削り出しボディのHHKB。あぁ、美しい、美しいよ。ただ僕としては墨も好きなんですが、どちらかというと白派なので、早くキートップを交換したいという気持ちになりました。

これが裏面。わぁ、天井が丸見えだ。何この鏡面仕上げは。

この刻印も美しい。この刻印、これからは見ることはあまりないんだろうけど、この美しい刻印があるHHKBを使っているんだと思うだけで、生産性が上がりそうだ。

これがさっき見た、足の部分か。ここが赤いのも、ワンポイントな感じがして良い味を出している。

本体を表面にして、裏を見てみました。なんだこの鏡面仕上げは。ここもまた、美しい。全部がマットな仕上げではないんだ。どうしてここはこんなに艶があるんだろう。

そして2025年現在においてネックな部分は、ここです。USB端子です。このHHKB HGの素体となったモデルは、HHKB Professional 2です。今は懐かしい、USBハブが搭載されたモデルです。
このハブが意外と便利でね。ワイヤレスマウスのドングルだとか、USBメモリだとかを挿して使っていたんですよ。僕はよくケンジントンのトラックボールをここに挿して使っていました。それがまた相性が良くてね。
インターフェースをHHKBが束ねてくれて、それをminiBケーブルで繋いでいました。そう、このHHKB HGも、PCに接続する時はminiBケーブルを使います。microUSB端子が普及する前は、モバイルデバイスによく使われていた端子です。 ゲーム機で言うとPSPに使われていた端子でした。
今でもUSBのタイプB端子だったらプリンターやScanSnapなどにも使われていますが、ミニのタイプはUSB-Cに置き換わっています。

僕はひとまず、足を長いものに交換しました。付けられるもの全部つけて、角度を最大にしました。もうこの時点で、鏡面仕上げは指紋でベタベタです。
打ち心地は、本当にHHKBのProfessional2そのものでした。あぁ、懐かしいよこの感じ。初めてHHKB Professional2を買った時のことを思い出します。
そして気になる、音。昔はこれで、大学の講義室で聴覚障害を持った友人のために、教授の言葉をひたすらタイプしていました。ただし、この音が気になるために他の学生からはクレームもありました。
あの時、まだ大学生だった頃に、この世にType-Sがあったら、僕の人生も少しは変わっていたのかもしれない。(Type-Sは2011年発売)
というわけで、このHHKB HGを2025年に使うにあたって、気になるところが見えてきました。端子、そして打鍵音。キートップも気になります。そうそう、キートップによって打鍵音も変わるんですよ。僕はどちらかというと、墨のキートップよりも白のキートップの方が音も色も好みです。
それぞれの気になる部分を解消するために、次の作業を行いました。
カスタマイズした内容
コントローラ基板の交換
まず初めに着手したのが、コントローラ基板の交換です。これの最大の理由は、USB端子がminiBだからです。
2025年現在はUSB-Cが主流です。Appleは2016年に既にMacBookにUSB-Cを搭載していました。あれから9年近く経っていますが、ありとあらゆるデバイスでUSB-C端子が採用される時代になりました。iPhoneだってUSB-Cです。
だったらHHKB HGだって、USB-Cにしたいじゃありませんか。
これについては僕も経験がありまして。初めて買った高級キーボードであるHHKB Professional2の基板を2022年に交換しました。
自作キーボードでは定番のQMKに対応するための基板で、Alternative Controller for HHKBという名前のものが有名です。アリエクでも他の人が作った亜種のような基板が売られています。要は選択肢が色々とあるわけです。
調べていて、気になるものを見つけました。「SHKB」と呼ばれている基板です。Hasuさんのコントローラ基板やBluetooth対応化基板で、唯一犠牲になっていたものが、USBハブの機能なんですよ。
それに、僕自身はあまりBluetoothでキーボードを接続するのが好みではなく、安定した有線で繋ぎたいと今でも考えています。
なのでここは、SHKBと言う名前の基板を試してみることにしました。
プロジェクト自体のGitHubリポジトリはこちらです。
基板の販売自体は、4PPLETというサイトで行われていました。僕は今回、こちらのサイトからFullバージョンの基板を購入しました。
注文してから大体10日ほどで到着しました。最近の海外通販は、届くのが早くなりましたね。

これが日本に無事届いたSHKB基板です。USB3.1端子が3つ付いています。

こちらがHHKBの外から見える部分です。青いUSB端子と、USB-C端子がこちらを向いてくれています。

使用されているチップは「ATMEGA32U4-AU」です。自作キーボードのProMicroなどに使われているものと同じです。

その横にあるチップは、USBハブの基板です。TUSB804と見えます。

それとこの基板の良いところはUSB3.1端子がもう1つあることです。外側ではなく、ボディの中で挿しっぱなしにできるデバイスを追加する場所です。ここは定番だとは思いますが、USBメモリを入れておくことにしました。

ね。ピッタリでしょ。HHKB HGをPCに接続した時点で、キーボードとして認識するとともに、USBメモリも接続されます。REMAPなどに使うJSONファイルなどを保存する場所にピッタリです。
ただし、このSHKB基板には難点が1つだけあります。それは、USB-C端子の場所のために、ボディの加工が必要だということです。

この写真はHGではなくPro2の写真ですが、USB-C端子がminiB端子用の穴と干渉しているのがお分かりでしょうか。このままではケーブルが挿せません。

HHKB HGではこの背面プレートにminiBの形の穴がくり抜かれています。この美しい仕上がりを・・・勿体無いんですが・・・。

削りました!ダイヤモンドヤスリで!あああもう元には戻せない。でもこれもUSB-C化するためだぁぁぁぁ!
Hasuさんが設計したコントローラは、ちゃんと端子部分だけかさ増しされて、miniBの上の広がった部分にピッタリUSB-C端子が来るように設計されていたんですけどね。ここはHasuさんすごい。
これまたSHKB基板を固定するのにネジ穴と基板が干渉してしまったのでネジが1つ余ったり、ネジをキツく絞めると余ったネジ穴と抵抗が干渉するのでワッシャーを挟んだりと、取り付けるだけでも工夫が必要でした。
これでUSB3.1ハブとUSB-C端子を搭載しつつ、QMKに対応したHHKB HGが完成しました。
ルブ
HHKBの打ち心地って、シャコシャコしませんか?コトコト、ポコポコという打ち心地なのはごもっともなんですが、それは底打ち感の話で、僕が言いたいのはキーを指で押している間の、キーがストロークしている間の音の話です。
何言ってんの?と思われるかもしれませんが、結局ここはプラスチック同士がレールの通りに上下しているんですよね。つまりプラ同士が擦れているんです。
ここをね、グリスを塗ることによって、非常に滑らかな打ち心地になるんですよ。「ルブ」と言います。僕がHHKBにルブを行うという文化に出会ったのは2022年のことです。エバンジェリスト仲間のダニエルさんがルブしたHHKBを持っていて、触らせてもらった時の感動が忘れられなくなりました。
詳しいやり方についてはこちらにまとめました。
普通のHHKBにもやってるんだから、HGもルブしなくちゃね!と思って、やりました。

今回ルブに使ったのは、これです。Amazonで買えます。

こんな感じに、レールの凹んだ部分に塗りたくりました。塗りすぎると逆にキーが戻るのが遅くなってしまうので、加減が必要です。少なすぎてもダメ、塗りすぎてもダメ。自分にとってちょうど良いポイントを探すのも、これまたこだわりです。
Type-S化

PFU社の松本さんより、Type-S化するための静音リングを60キー分いただきました。これでType-S化できました。HHKB HGの母体はType-Sが出る前のPro2なので、音が凄かったんですよ。特にキーが戻った時の、プレートの裏側に当たる音が。
その部分に当たるように、軸部品に輪投げの輪のように入れました。これ地味に時間がかかりました。
ラバードームの交換
静電容量無接点方式の構造はご存知でしょうか。
一般的なメンブレン方式とは違って、スプリングを押し下げることで電荷容量値を変化させてスイッチングさせます。
でもですよ。そのスプリングはゴムで覆われているんですよ。ラバードームと言います。ここが最大の泣きどころ。ラバードームはゴムなので、時間の経過とともに固くもろくなっていきます。
輪ゴムの劣化だと想像しやすいですよね。あんなにもやわではありませんが、HHKBは使って使って年月が経つと、使っている人がわからない速度でどんどん押下圧が重たくなっていくことがあります。また、HYBRID以前ではこのラバードームの品質に少しばらつきがあったので、個体差が結構ありました。
これを、シリコン製のドームに交換しました。

選んだドームはDES-DOMES CARROTS 35gです。deskeysというサイトで販売されている、キャロットという種類のドームで、35gという軽さと独特なタクタイル感が特徴です。魚住から定評があります。
こちらのラバードームについては、別記事にてまとめてあります。
HHKB HGを2025年最高の形にした

長くなりましたが、これでようやく現代においての使用にも順応してくれるHHKB HGが完成しました。
そうそう、キートップは無刻印雪に交換しました。白く光るアルミボディには雪がピッタリだと思いました。Ctrlキーにはエバンジェリストに配布されたキートップを付けました。

やすりがけした部分、ちょっと不格好ですが、これでケーブルが接続できるのでこれで良しとします。

パームレストは、お気に入りの革張ウッドパームレストにしています。少しお高いパームレストですが、手を置いた時の感触が大好きなんですよ。

ちなみにキーマップはというと、レイヤー0とレイヤー1はHHKBと同じにしてあります。ただし、左右の⌘キーは単押しで言語切り替えができるようにしました。US配列Macを使う際によくやる設定ですよね。
それと、スペースキーは単押しでスペースキーですが、組み合わせる際はレイヤー2として動作するようにしました。これでスペースキーを押しながらIJKLでカーソル移動できます。あとは使いそうなショートカットキーを割り当てました。
そうそう、スペースキーをしながら「G」で英数、「H」で日本語入力にも切り替わります。本当はこの長いスペースキーを分割したいんですけどね。それはまたいつか。今はスペースキーをレイヤー2ボタンにすることで、足りないキーを補うようにしています。
現存するHHKBの中での唯一のアルミ削り出しモデル。Happy Hacking Keyboard HD。やっぱりHHKBは静電容量無接点方式が良いですよ。HHKB Studioもメカニカルとしては最高なんですけどね、押下圧がちょっと重たくてね。かといって、他のキースイッチだとキーキャップがちょっとグラグラするのでちょっとね。
ずっと前から使ってきたHHKB Professional2が、最高の形になった。ボディだって基板だって最高だし、ルブも静音リングもラバードームもキーマップだって。
今のHHKBにやってやれること、全部やりました。僕の中で、これが最高のHHKB HGです。これから、よろしくな、相棒。